はじめに

「役所からの電話の内容が理解できていないみたい」「書類を渡しても、読んでいるはずなのに話がかみ合わない」──
高齢の親を見て、そんな違和感を覚えたことはありませんか。

結論から言うと、電話や書類の説明が理解しにくくなるのは、必ずしも認知症が原因とは限りません。
加齢による変化や、現代の制度・説明方法そのものが、高齢者にとって難しくなっている場合も多いのです。

この記事では、

  • なぜ高齢者は電話や書類の説明を理解しにくくなるのか
  • 家族が感じやすいサインと誤解
  • 今日からできる現実的な対処法

を、介護前の段階でもわかりやすく整理します。


高齢者が電話や書類の説明を理解しにくくなる理由

  • 情報量が多く、処理が追いつかない
  • 聞き慣れない言葉・制度が増えている
  • 加齢による「聞く力・読む力」の低下
  • 認知症でなくても起こる変化

こういった理由を1つずつ見ていきましょう。

情報量が多く、処理が追いつかない

最近の電話説明や書類は、一度に伝えられる情報量が非常に多くなっています。

  • 一文が長い
  • 条件や例外が多い
  • 前提知識がないと理解できない

高齢になると、話を聞きながら内容を整理し、記憶にとどめる「作業記憶」の力が少しずつ低下します。
そのため、内容そのものは難しくなくても、途中で話についていけなくなることが起こります。

たとえば、

  • 電話で「◯日までに◯◯の手続きが必要です」と説明されても、途中から内容が頭に入らなくなる
  • 条件がいくつも出てきて、最初に言われた話を忘れてしまう

といった場面は、介護の現場でもよく見られます。

聞き慣れない言葉・制度が増えている

行政手続き、保険、金融関係では、ここ数十年で言葉や仕組みが大きく変わりました。

たとえば、

  • カタカナ用語
  • 略語や制度名
  • 「オンライン」「マイナンバー」などの前提

これらは若い世代には当たり前でも、高齢者にとっては初めて聞く言葉の連続です。

介護現場でも、書類を前にして
「読んでいるけれど、実は内容はほとんど理解できていない」
というケースは珍しくありません。
理解できないのは、能力の問題ではなく「慣れていない」だけの場合も多いのです。

加齢による「聞く力・読む力」の低下

聴力や視力の低下は、本人が自覚しにくい変化です。

  • 電話の声が聞き取りにくい
  • 小さな文字を読むのに時間がかかる
  • 長文を読むと疲れる

こうした状態で説明を受けると、内容以前に集中力が続かなくなります。

介護の現場では、

  • 聞こえていないのに、わかったふりをしてうなずく
  • 読めない部分を飛ばしてしまう

といった様子もよく見られます。
結果として「説明されたはずなのに、理解できていない」状態が生まれます。

認知症でなくても起こる変化

「理解できない=認知症では?」と心配になる方も多いですが、
その前段階として、

  • 加齢による自然な変化
  • 軽度認知障害(MCI)

といった状態でも、同じような困りごとは起こります。

重要なのは、早い段階で周囲が気づき、支え方を変えることです。


家族が感じやすいサインと、よくある誤解

「何度説明してもわからない」は珍しくない

同じ質問を何度もされると、家族はついイライラしてしまいます。
しかしこれは、多くの家庭で起きているごく一般的なことです。

本人は理解しようとしていても、

  • 一度に覚えきれない
  • 前の説明を忘れてしまう

といった理由で、結果的に同じやりとりが繰り返されます。

本人は「わからない」と言えない

高齢者の中には、

  • 迷惑をかけたくない
  • 自分が衰えたと思われたくない

という気持ちから、「わからない」と言えずにうなずいてしまう人も少なくありません。
そのため、家族から見ると「説明したのに理解していない」ように見えます。

家族がイライラしてしまう理由

家族が怒ってしまうのは、親を大切に思っていないからではありません。

  • 忙しい中で時間を取られている
  • 話が進まず不安になる
  • 将来への心配が重なる

こうした状況が、感情的な反応につながりやすいのです。


家族ができる現実的な対処法

高齢者への説明|家族がやりがちな対応とおすすめの対応(比較表)

よくある対応(家族側) 介護士視点のおすすめ対応
電話の内容をすべて本人に任せる 重要な電話は家族が同席・代行する
一度で全部説明しようとする 1回の説明は1テーマに絞る
書類を「全部読んでおいて」と渡す 要点だけ一緒に確認する
何度も同じ説明を繰り返す メモやチェックリストを活用する
わからないと怒ってしまう 混乱しないことを最優先にする
「もう無理だ」と決めつける できる部分だけ支える
  • 電話は家族が代わる・同席する
  • 書類は「一緒に読む」「要点だけ伝える」
  • 説明は一度にしない
  • メモ・チェックリストを活用する

 

電話は家族が代わる・同席する

重要な電話は、

  • 家族が代わりに対応する
  • スピーカーにして一緒に聞く

だけでも、誤解やトラブルを大きく減らせます。

書類は「一緒に読む」「要点だけ伝える」

書類をすべて理解してもらおうとする必要はありません。

  • 重要な部分だけ説明する
  • 判断が必要な点を一緒に確認する

それだけで十分な場合も多いです。全部でなく大切なところだけでOK。

説明は一度にしない

「まとめて説明すれば早い」と思いがちですが、高齢者にとっては逆効果になることが多いです。

介護士としての経験上、

  • 1回の説明は1テーマだけ
  • その場で結論まで出さない

この2点を意識するだけで、理解度は大きく変わります。

家族としては、
「きちんと理解してもらわなければ」
「間違えたら困るから全部説明しなければ」
と思いがちですが、完璧な説明を目指す必要はありません。

大切なのは、本人を混乱させず、不安を増やさないことです。

メモ・チェックリストを活用する

口頭説明だけに頼らず、

  • 簡単なメモ
  • 箇条書きのチェックリスト

を残すことで、混乱を防ぎやすくなります。メモがあると思い出しやすくなります。


やってはいけない対応

  • 何度も同じ説明を繰り返す
  • 叱る・責める・否定する
  • 「もう無理だ」と決めつける

これらは、本人の不安や混乱を強めてしまいます。


どこまでを家族で抱え、どこから相談すべきか

地域包括支援センターに相談してよいケース

  • 家族だけでは対応が難しい
  • 今後が不安で整理したい

こうした段階でも、相談して問題ありません。

医療機関を検討する目安

  • 日常生活にも支障が出てきた
  • 金銭管理や契約に不安がある

場合は、専門家の意見を聞くことも選択肢です。


よくある質問(Q&A)

Q1. これは認知症の始まりなのでしょうか?

A. 電話や書類の説明が理解しにくくなったからといって、すぐに認知症とは限りません。

加齢による集中力や作業記憶の低下、聞き慣れない制度や言葉の増加など、認知症以外の要因でも同じような困りごとは起こります。
ただし、日常生活全体に支障が出てきたり、金銭管理や約束ごとが極端に難しくなってきた場合は、早めに専門家へ相談することが安心につながります。

Q2. 何度も同じ説明を求められ、つい強く言ってしまいます

A. 家族が感情的になってしまうのは珍しいことではありません。

介護の現場でも、「何度も説明しているのに伝わらない」という場面は日常的にあります。
大切なのは、理解させることよりも、混乱させないことを優先する視点です。
一度に説明する内容を減らし、メモやチェックリストを使うだけでも、家族側の負担は軽くなります。

Q3. どの段階で家族が手続きを代わるべきでしょうか?

A. 明確な線引きはありませんが、

  • 電話内容を正確に把握できない
  • 書類の重要な部分が理解できていない
  • 本人が強い不安を感じている

こうした状態が見られたら、部分的に家族が関わることを検討してよいタイミングです。
すべてを代わる必要はなく、「電話は家族が同席する」「判断が必要な部分だけ一緒に確認する」といった形でも十分です。

Q4. 相談先がわからず、家族だけで抱え込んでしまいます

A. 介護が始まっていなくても、地域包括支援センターは利用できます。

「まだ早いのでは」と感じる段階でも、話を聞いてもらうだけで整理が進むことは多くあります。
家族だけで抱え込まず、早めに外部の視点を入れることが、結果的に負担を減らすことにつながります。


まとめ(安心して対応するために)

  • 理解できなくなる=すぐ認知症ではない
  • 家族の関わり方で負担は大きく変わる
  • 早めに「支える形」を作ることが大切

電話や書類の困りごとは、介護が始まる前の大切なサインでもあります。

介護の現場では、こうした小さな違和感を放置した結果、

  • 重要な手続きを逃してしまった
  • 本人も家族も強い不安を抱えてしまった

というケースを何度も見てきました。

一方で、早い段階から家族が関わり方を変え、「電話は一緒に聞く」「書類は要点だけ確認する」といった形を取ることで、混乱やトラブルを防げた家庭も多くあります。

電話や書類での違和感は、将来の手続きや判断にもつながっていきます。
重い話題を急ぐ必要はありませんが、家族で役割を考え始めるきっかけとして、今の段階から意識しておくことが、後悔を減らすことにつながります。