はじめに

親の介護が現実になったとき、多くの人が最初に悩むのは「誰が介護するのか」「これは自分の責任なのか」という問題です。特に、長男・同居・女性といった立場にいると、周囲から当然のように期待され、重い責任を背負わされていると感じることも少なくありません。

結論から言うと、親の介護は誰か一人がすべてを背負うものではありません。介護保険制度の導入以降、介護は「家族だけの問題」から「社会全体で支える仕組み」へと位置づけが大きく変わりました。家族の責任がゼロになるわけではありませんが、その重さを公的な仕組みが肩代わりし、軽くすることができる時代になっています。

この記事では、親の介護における責任の考え方を、法律・慣習・現実という3つの視点から整理します。必要以上に自分を追い込まず、冷静に判断するための軸を持ってもらうことが目的です。

この記事でわかること

  • 親の介護に「法的な責任」はどこまであるのか
  • 家族だけで背負わなくてよいと考えられる理由
  • 家族関係を壊さずに介護と向き合うための視点

親の介護は法律上、誰の責任なのか

「親の介護は子どもの義務なのでは?」と考える人は多いですが、法律上の考え方は少し異なります。民法には親族の扶養義務が定められていますが、これは生活の面で最低限の支え合いを求めるものであり、「日常的な介護を担わなければならない」という義務を直接課すものではありません。

つまり、法律上は「親の介護を子どもがやらなければならない」と決められているわけではありません。現実には家族が関わる場面は多いものの、介護そのものは専門職や公的サービスが担うことを前提に制度が設計されています。

介護=家族の義務、という理解は、法律よりも慣習や思い込みによって強く残っている面が大きいと言えるでしょう。


長男・長女・同居が背負わされやすい理由

長男だからという思い込み

「長男だから面倒を見るべき」「跡取りなのだから当然」という考え方は、今でも根強く残っています。しかし、現代の家族構成や働き方を考えると、長男だからという理由だけで介護の中心を担う必然性はありません。

この思い込みは、親世代や親戚からの無言の圧力として現れることもあり、本人が自覚しないまま責任を引き受けてしまうケースもあります。

同居している人がやるべきという空気

親と同居しているというだけで、「一番状況がわかっているのだから」「近くにいるのだから」と、介護の役割が集中しやすくなります。実際には、同居している人ほど生活への影響が大きく、負担が偏りやすい立場でもあります。

同居=全責任、という考え方は、現実的ではありません。

女性が介護を担う前提が残っている現実

介護は「女性の役割」という意識も、完全には消えていません。娘や嫁が中心になって動くことを当然とする空気は、今も多くの家庭で見られます。

しかし、共働きが当たり前になった現代において、この前提は大きな無理を生みます。慣習と現実のズレが、介護の苦しさを増幅させているのです。


介護保険制度が始まって、介護は「家族の役目」から変わった

2000年に介護保険制度が始まったことで、介護の位置づけは大きく変わりました。

それまで介護は「家族が私的に担うもの」とされがちでしたが、制度の導入によって、介護は社会全体で支える対象として明確に位置づけられました。

介護保険は、単に家事や身体介助といった「手」を提供する仕組みではありません。家族がすべてを背負わなくてもよい、という前提を社会として認めた制度でもあります。

家族が介護する考え方は今も根強く残っていますが、公的な仕組みを使うことで、家族の責任の重さを分散し、肩代わりしてもらうことができます。これは家族の責任を否定するものではなく、家族が壊れないための現実的な支え方だと言えるでしょう。

家族介護と公的介護の考え方の違い

観点 家族だけで介護する考え方 公的介護を使う考え方
介護の位置づけ 家族の私的な責任 社会全体で支える仕組み
主な担い手 長男・同居家族・女性に偏りがち 家族+専門職・制度
責任の重さ 一人に集中しやすい 分散できる
判断の負担 家族だけで抱え込む 専門家の助言を得られる
家族関係 摩擦・疲弊が起きやすい 距離を保ちやすい
介護の考え方 我慢・義務になりやすい 選択・調整ができる

兄弟姉妹がいる場合、責任はどう考える?

兄弟姉妹がいる場合でも、責任を完全に平等に分けることは難しいのが現実です。住んでいる場所、仕事、家庭状況によって、できることとできないことが異なるからです。

大切なのは、「誰がどれだけやるか」ではなく、「何を分担するか」を整理することです。介護には、直接的な世話だけでなく、手続き、連絡、判断、見守りなど、さまざまな役割があります。

実務を担えなくても、別の形で関わることは可能です。介護の責任は、形を変えて分け合うことができます。


介護の責任を一人で抱え込むと起きやすい問題

介護を一人で抱え込むと、心身の負担が限界を超えやすくなります。疲労やストレスが蓄積すると、冷静な判断が難しくなり、結果的に介護の質や家族関係に悪影響が出ることもあります。

また、責任感が強い人ほど「自分がやらなければ」という思いに縛られ、周囲に助けを求めるタイミングを逃しがちです。これは本人にとっても、親にとっても望ましい状態ではありません。


家族で話し合うときの現実的な考え方

家族で介護について話し合うときは、感情と役割を切り分けて考えることが重要です。「気持ち」と「できること」を混同すると、話し合いはこじれやすくなります。

まずは、今できることと、将来必要になりそうな選択肢を分けて整理しましょう。完璧な答えを出そうとする必要はありません。状況は変わるものだからです。

介護は長期戦になることもあります。一度ですべてを決めようとせず、段階的に考える姿勢が、結果的に家族全体を守ることにつながります。


Q&A(よくある疑問)

Q1. 子どもが3人いる場合、親の介護は3人で分担でいいですか?
A. はい。法的な考え方では、特定の1人が全責任を負うものではなく、3人で分担するのが原則です。
民法上の扶養義務は平等で、「長男だから」「同居しているから」といった序列は定められていません。また、法律は“介護を自分でやる義務”まで求めているわけではありません。実務・手続き・金銭面など、できることを分け合う分担が自然な考え方です。介護保険などの公的制度を使うことで、家族の責任の重さをさらに分散できます。

Q2. 兄弟姉妹の一部が介護に協力してくれない場合、どう考えればいいですか?
A. すべてを平等に求める必要はありません。関われる形は人によって違います。
住環境や仕事、家庭事情によって、できること・できないことは異なります。実務に関われなくても、連絡調整や判断、費用面での協力など、役割の分け方は一つではありません。重要なのは「同じ量をやること」ではなく、「誰か一人に集中させないこと」です。

Q3. 公的な介護サービスを使うのは、家族として無責任ではありませんか?
A. 無責任ではありません。公的介護は、家族の責任を軽くし、支えるための仕組みです。
介護保険制度は、家族が壊れないように責任の重さを分散する目的で作られています。公的サービスを使うことは、介護を放棄することではなく、長く安定して向き合うための現実的な選択です。


まとめ

親の介護は、誰か一人がすべてを背負うものではありません。法律、慣習、現実を分けて考えることで、必要以上に自分を責めずにすみます。

介護保険制度は、家族の責任をゼロにするものではありませんが、その重さを公的な仕組みが肩代わりし、軽くする役割を果たしています。早い段階でこの視点を持つことが、後悔や対立を減らす第一歩になります。