はじめに
「老健と特養ってどう違うの？」「デイサービスとの使い分けがよくわからない…」──介護の現場では、家族や新人スタッフからこうした相談を受けることが本当に多いものです。
結論から言うと、
・老健（介護老人保健施設）は“在宅復帰”を目的とした医療寄りの施設（一定期間の入所で、機能訓練をして自宅に復帰する）
・特養は“生活の場”（期間の制限がない入所で生活の場になる）
・デイサービスは“自宅生活を続けるための支援”が中心（通所）
ただし、目的の違いがあるため、働く側・利用する側では見え方が変わり、選び方を間違えると後になって困ったことになることもあります。
この記事では、
- 老健・特養・デイサービスの本質的な違い
- 現場で実際に働いてわかった利用者層・業務の実際
- 利用する側・働く側が押さえておくべきポイント
これらをわかりやすく整理していきます。
老健（介護老人保健施設）とは？
老健は「病院と自宅のあいだ」に位置づけられるため、実際の現場では“回復期”と“生活支援”の両方が求められます。特に、退院直後の方は環境の変化で状態が揺れやすく、リハビリの進み方や家族の希望によって在宅復帰のタイミングが変わることも多くあります。介護職は、身体介護だけでなく「回復のためのサポート」を意識して関わる場面が多いのが特徴です。
また、老健は医療的な対応が比較的多く、現場の職員は急変対応や情報共有を密に行う必要があります。そのため、自然とチーム医療の理解が深まり、介護職としての成長にもつながりやすい施設形態とも言えます。
定義・設置根拠
老健（介護老人保健施設）は、介護保険法に基づいて設置された “在宅復帰を目指す” ための中間施設です。医療的ケアとリハビリが強く、医師・看護師・リハビリ職が必ず配置されます。
わたしは老健で介護士として働いたことがありますが、日中は医師・看護師がいて、夜勤も必ず看護師がいました。利用者さんが急変したときはとても不安になりますが、看護師が近くにいてくれると精神的にとても安心します。
目的・特徴
老健の最大の特徴は、在宅復帰機能です。
- リハビリ職（PT/OT/ST）の手厚い支援
- 看護師配置が多め
- 医師が常勤（もしくは非常勤＋提携）
- 生活よりも「回復・改善」に比重
原則として、長期入所よりも“次の生活”を見据えたリハビリが中心になります。
老健・特養・デイサービスの違い
【比較表】老健・特養・デイサービスの違い（簡単まとめ）
■ 目的・役割の違い
| 項目 | 老健（介護老人保健施設） | 特養（特別養護老人ホーム） | デイサービス（通所介護） |
|---|---|---|---|
| 目的 | 在宅復帰・リハビリ | 生活の場・長期入居 | 自宅生活の継続支援 |
| 位置づけ | 医療寄りの中間施設 | 生活支援が中心 | 日帰りで必要部分だけ支援 |
| 利用期間 | 原則3ヶ月（延長あり） | 期間制限なし | 1日単位で利用 |
老健は、利用者が機能訓練をして自宅に帰ることが目的です。そのため長期間入所することはできません。
特養は、利用者が期間制限なく入所でき生活の場となります。
■ 利用者層・状態の違い
| 項目 | 老健 | 特養 | デイサービス |
|---|---|---|---|
| 主な利用者 | 退院直後・リハビリ目的 | 自宅での生活が困難 | 自宅生活は可能だがサポートが必要 |
| 身体レベル | 中〜重度、医療ケア多め | 中〜重度（生活支援中心） | 要支援〜軽度・中度まで幅広い |
| 特徴 | 回復とリハが中心 | “終の棲家” の側面 | 自宅生活を維持するための支援 |
■ サービス内容・スタッフ体制
| 項目 | 老健 | 特養 | デイサービス |
|---|---|---|---|
| 医療ケア | 〇（手厚い） | △（必要最低限） | △（最小限） |
| リハビリ | ◎（PT/OT/ST常駐） | △（機能訓練あり） | 〇（機能訓練員） |
| 食事・入浴・排泄介助 | 〇 | ◎ | 〇 |
| 夜勤 | あり | あり | なし |
- 老健：医療・リハ強め、看護師多め、リハ職が必須
- 特養：生活支援が中心、看護師は必要最低限
- デイサービス：日帰り、入浴支援・機能訓練・レクリエーション
老健・特養・デイサービスの違いは制度上明確に定められていますが、実際の現場では“利用者の生活背景”によって選ばれるケースが多いです。例えば、家族が共働きで日中の見守りが必要な場合はデイサービス、退院後のリハビリを短期間で集中して行いたい場合は老健、長期的に生活の場が必要な場合は特養というように、それぞれの施設が「生活の困りごと」への解決策として機能しています。
また、各施設は地域の医療機関・行政とも連携しており、利用者の状態に応じて“施設間の移動”が起こることも少なくありません。老健からデイサービスへ、特養からショートステイへ移動もよくあります。介護サービスがネットワーク化して支えているのが現代の介護の実情です。
入所条件・期間
- 老健：要介護1〜5、期間は原則3ヶ月（更新は可能）
- 特養：要介護3〜5（特例あり）、期間制限なし
- デイサービス：要介護1〜5／要支援も利用可
実際に働いた経験から見える「老健で働く」実際
老健で働くと、利用者の“回復のスピード”は本当に人それぞれで、リハビリの成果がそのまま生活力に反映される場面を多く見ます。歩行訓練が安定していくにつれて表情が明るくなったり、反対に状態が思うように回復せず不安を訴える利用者もいます。そうした日々の変化に寄り添いながら、看護師・リハ職・介護職が連携して最適なケアを模索するのが老健の現場です。
また、介護士として働くと“生活のすべて”を支える特養とは違い、「できることはできるだけ自分でやってもらう」支援の難しさを感じます。リハビリを最大限活かすため、あえて“見守りの距離”を調整したり、できる動作を尊重する関わり方が求められるのです。
利用者の特徴・1日の流れ
老健の利用者は、病院からの転院直後が多く、
- リハビリ意欲の高い方
- 医療的ケアが必要な方
- 在宅復帰を希望する家族
が中心です。
1日の流れは、特養よりも “リハビリ時間” が大きな比重を占めます。
求められるスキル・チーム構成
- リハ職・看護師・介護職の連携が強い
- 医療寄りの場面が多く、観察力が必要
- 転倒リスクが高く、対応スピードが求められる
老健を選ぶ／働く上で押さえておくべきポイント
老健は“在宅復帰”を目標とするため、利用者・家族・職員の三者で方向性を共有することが非常に重要です。特に家族が在宅介護に不安を抱いている場合、老健では家族支援の時間も多く、復帰後の生活をイメージしながらアドバイスを行うことが求められることもあります。
また働く側にとっては、老健は「医療との距離が近い介護」のため、医療知識の習得が自然と進みます。吸引・褥瘡予防・服薬管理など、特養よりも医療的ケアの場面が多く、経験値を高めたい人にとっては最適な環境でもあります。
利用者・家族が確認すべき5点
- 在宅復帰率はどのくらい？
- リハビリの回数・時間は？
- 医師や看護師の体制は？
- 夜勤体制は？
- 家族との連携・面談の頻度
働く側が注目すべき3点
- 医療寄りの知識が身につく環境か
- リハ職・看護との連携が取りやすいか
- 身体負担や夜勤の回数
よくある誤解・注意点
- 老健は「終の棲家」ではない
- 入所期間は短期〜中期が基本
- リハビリ施設だが生活支援も欠かせない
Q&A（よくある質問）
Q1. 老健はどれくらいの期間入所できますか？
A. 原則3ヶ月が基本ですが、実際の現場では“利用者の回復状況”や“在宅環境の準備状況”によって延長されることが多いです。例えば、リハビリが順調でも自宅のバリアフリー化が終わらない、家族の介護体制が整わないなどの理由で数ヶ月〜1年ほど継続するケースもあります。医師とケアマネとの連携で柔軟に延長されるのが実情です。
Q2. 老健と特養のどちらを選べばいい？
A. 「自宅に戻る可能性がある」「家族が在宅介護を希望している」場合は老健が向きます。リハビリ体制が整っているため、身体機能の回復を目指しやすいからです。一方、日常生活の介護量が多く、自宅での生活が難しい場合、特養のような“生活の場”としての環境が適しています。長期入居を前提にしている点が大きな違いです。
Q3. 老健のリハビリはどのくらい手厚い？
A. 老健はPT（理学療法士）OT（作業療法士）ST（言語聴覚士）が配置され、個別リハビリと集団リハビリの両方が実施されます。週に複数回の個別訓練が組まれることが多く、退院後の回復期には非常に効果的です。ただし、リハビリ時間は施設ごとに差があるため、見学時に“実施頻度・訓練内容・担当者の体制”を確認することが重要です。
Q4. デイサービスとデイケアの違いは？
A. デイサービスは入浴・排泄・レクリエーションなど生活支援が中心で、リハビリは“機能訓練指導員”レベルです。一方、デイケア（通所リハビリ）は医師の指示のもと、PT/OT/STが専門的な訓練を行います。病院のリハビリに近い内容で、身体機能の維持・向上を目的としたい人に向いています。
Q5. 老健は“終の棲家”として利用できますか？
A. 利用できません。老健は“在宅復帰”が大前提の施設です。そのため、入所期間が長くなりすぎると更新が難しくなったり、施設側から在宅復帰や転所の提案が行われます。長期的な生活を希望する場合は、特養や有料老人ホームの検討が必要となります。
Q6. 老健で働くメリットは？
A. 老健は医療と介護のバランスが良く、医療寄りの知識や観察力が自然に身につきます。急変時の対応、看護職との連携、リハ職との協働など、介護職としての専門性を大きく伸ばせる環境です。特養とは違った“回復期特有のやりがい”を感じられるのも特徴です。
Q7. 老健の夜勤はきつい？
A. 夜勤は特養よりも“医療観察の緊張感”がありますが、その一方で生活介助の回数は比較的少なめです。利用者はリハビリ中心で身体能力が一定程度保たれていることが多く、夜間の巡視や排泄介助は特養ほど多くない傾向があります。ただし、急変時の対応が必要になるため、医療的理解と判断力が求められますが、夜勤スタッフに看護師がいますので安心感はあります。
まとめ
老健・特養・デイサービスの違いを理解すると、利用者の状態や希望に合わせて最適なサービスを選びやすくなります。また、働く側にとっても、それぞれの特徴を知ることで自分のキャリアに合った職場選択ができます。
老健は、”生活の場”ではなく”回復と在宅復帰の場”であることを改めて意識しておく必要があります。リハビリ職や看護職との連携は必須で、介護士が中心の特養とはまったく異なるチームワークになります。こうした特徴を押さえることで、より納得感のある施設選びや転職活動が可能になると思います。
施設見学・面談・転職情報の確認など、目的に合った選択を進めていきましょう。
